勢いのある筆使い。生命力溢れるのびやかな表現。冬に備えて餌を探す秋の梟だろうか。木の上であたりを見渡す梟の絵に、そんな印象を持った。
 唐津で作陶する藤ノ木陽太郎さんの自宅に、昼間現れた一羽の梟。珍しい来客への驚きと喜びを陽太郎さんは飯碗に描いた。梟は、先人たちの絵唐津にはなかったモチーフだ。「伝統的な絵唐津に季節感はありませんが、僕の場合、初夏の蛍袋、夏の金魚や花火などを描くことがあります。季節のお手紙のように器からも四季の喜びを感じていただきたいからです」。その話を聞いて改めてふくよかな表情の梟に秋の気配を感じた。

  唐津駅から車で30分。焼きものの歴史と自然豊かな地域に、陽太郎さんのご自宅兼工房はある。到着するとすぐに「ちょっと一服しませんか」と、母屋の少し先にある茶室へ案内してくれた。貴人口から入ると、ほどなくして奥から現れた陽太郎さんは静かに茶を点てはじめた。もちろん、茶碗はご自身で作陶したもの。朝鮮唐津、斑唐津、絵唐津など、唐津焼らしく土味が生きた茶碗が並び、そのひとつで茶をいただく。茶室に響いてくる小鳥のさえずりが静寂を満たし、特別な時間が流れる。「日々の暮らしのなかに、こんな時間もよろしいのでは…」。彼のさりげないもてなしからそんなメッセージが伝わってくる。

  来客のない日でも、午前と午後の2回、必ず家族で茶の時間を持つ。仕事は朝4時からはじまり、夕方まで続く。体力と集中力を必要とする作陶の仕事に、茶の時間は気持ちを高め、そして、新たな創造力をもたらしてくれる。絵や造形など様々な技法で生きものの一瞬の動静を表現する陽太郎さんの器には、その暮らしぶりが確実に影響している。彼の器を使って、ふだんの生活でも美味しいお茶をいただきたい。ささやかな日々に心を満たすかけがえのない時間が流れて、使う器の魅力をますます感じられそうだ。

つくった方

藤ノ木陽太郎さん
ふじのきようたろう

1981年 唐津市に生まれる

2006年 多摩美術大学 油画専攻(現代美術)卒業

2007年 父・藤ノ木土平に師事

2010年 土平窯にて作陶

ご紹介のお店

土平窯

〒847-0402 佐賀県唐津市鎮西町野元1315-3

電話:0955-82-2970/ 0955-82-3028

mail: turqjam@yahoo.co.jp

※窯をお訪ねの際は、事前にお問い合わせください。