時を越えて

  どんなに大切にしている器でも、欠けたり、ひび割れたりしてしまうことがある。ましてや手からするりと落ちて割れてしまった時のあの喪失感といったら…。その器がもう二度と手に入らないものだとしたら、想いはなおさらだ。

  そんな気持ちに寄り添い器をなおすのは、福岡で金継ぎ工房を営む小松知子さん。小松さんが初めて金継ぎの魅力に触れたのは、蒔絵師の先生のもとで修業していた20代の頃。あるアンティークショップで目にしたオランダ製のデルフト焼がきっかけだという。古くて白いデルフト焼に、まるでデザインされたかのように施された金継ぎを目にした瞬間、「私の学んできた技法でこんなに美しい手仕事ができるなんて」と大きく心を揺さぶられたそうだ。以来、器をなおす仕事を業としてきた。「金継ぎや銀継ぎ、色漆など、どれを用いるかで仕上がりの印象は大きく変わります。いちばん大切にしたいのは、持ち主の想い。できるだけゆっくりとお話を聞かせていただくようにしています」と小松さんは話す。

 ある日、小松さんのもとにやってきたのは、何片かに割れてしまった坏。とても古い時代に作られたものだそうで、いくつもの時代を経た静かな空気感を取り戻したいという想いとともに坏を預かった。小松さんの手によって蘇ったのは、ふっくらと丸みを帯びた碗を楚々と支える高台の付いた白い坏。凛とした立ち姿が美しい坏には、白漆の細くて華奢な継ぎ目がふんわりと浮かび上がる。再び、静かな空気感を纏って。

  遥か昔、遠い異国の名も無き陶工の手によって作られた器は、いくつもの時代と、いくつもの人の手を渡り、今の時代を生きている。持ち主の想いを大切に継ぐ小松さんの優しさと温もりに満ちた器は、これからも時を越えて愛され続けるのだろう。

器を修復した方

小松 知子さん
こまつ ともこ

1973年 福岡県生まれ

1996年 鎌倉に移り、木漆芸家の関野晃平氏に師事

2000年 蒔絵師の小林宮子氏に師事

2001年 金継ぎの修理依頼受付を開始

2014年 金継ぎ教室開校

2018年 福岡市に工房をオープン

金継ぎ工房&教室
きんつぎこうぼう&きょうしつ

福岡市東区箱崎1-37-19
shareSOHO町家箱崎2階D

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