JICON 磁今/有田焼 前編

目指すのは、100 年後の「日用」で「定番」。

日々の食卓や台所で使いたいのは、長く使えるもの。使い続けるうちに手に馴染み、少しずつ使いやすく、確かに愛着が湧き上がってくる。茅乃舎が共感を覚えるのも、そういうものです。日本各地にまだある、いいもの、いい道具を求めて、今回は、佐賀県にある有田焼の窯元に。一つ一つ手をかけて、少しずつ出来上がる器の白さに、潔ささえ感じる瞬間があったりして。
佐賀県有田町。この街に、「JICON 磁今」をつくる窯元、今村製陶がある。有田駅近くの、古い町家が軒を連ねる一角にある直営店は、JICONをメインに、そのほかのブランドのものも扱うセレクトショップ。暮らしの道具に加えて、例えば、鹿児島の「すすむ屋茶店」の茶葉も販売する。2階の和室には、若い作家ものの器が、いくつも並んでいる。
12面のカップや飯碗など、食卓を彩る商品を取り揃えるJICONは、白磁の器。といっても、一般的に有田焼の青白い色合いではなく、生成りの白がアイデンティティー。一番の秘密は、通常より低い1240℃で焼き上げる酸化焼成にある。一般的な有田焼の青白い色は、還元焼成といわれる酸欠状態の炉で焼くことで、釉薬などに含まれた鉄分が発色したものだ。表情豊かに、素朴にも洗練にも映るJICONの生成り色。これが、和洋を問わず、多様な食や暮らしのシーンに馴染む。
直営店裏にある工房は開放感があって、風がよく通る。奥に進むと、作業中の今村肇さん。飯碗の裏側の、高台とよばれる部分をオリジナルの削りカンナを使って、形を整えている。今村さんは、350年の歴史を持つ陶悦窯13代目の次男として生まれ、陶悦窯で修行を積んで独立。大治将典さんというデザイナーにデザインを依頼して、JICONを立ち上げた。もともと、この場所は母方の実家の建物で、今村さんの奥さんの麻希さんが、アンテナショップを営んでいた。陶悦窯で働きながら、麻希さんの姿に影響を受けて独立を決意したという今村さん。2012年のことだった。
大治さんにデザインを依頼したのは、一緒に新しいブランドを作れるデザイナーを探して。求めたのは「先生」のような存在ではなく、なんでも気軽に相談でき、力を合わせて、まだカタチのないブランドを手探りで探し求めるパートナーだ。今村さんがJICONを始めるにあたって、「使いたいものだけを作る」という大治さんの考えに共感。今村さんのイメージを大治さんがデザインで形にし、それを、今村さんが焼き物にする。今では、JICONの色や形だけでなく、経営についても相談するほど信頼を寄せている。
作業は、生地作りから始まる。生地は、「圧力鋳込み」「水ゴテ」「排泥(はいでい)鋳込み」という3 通りの方法で作られ、それぞれ形によって向き不向きがある。圧力鋳込みは、平らな皿を作る際に、水ゴテはろくろを使うやり方で、高さがあるコップ類に用いる。排泥鋳込みは、花瓶やピッチャーなどに適している。
この日は、若い職人さんが、圧力鋳込みを行なっていた。白い石膏型をいくつも積み重ね、そこに、静かに粘土を流し込んでいく。石膏型は、繰り返し使うものだが、今村さんはこれを100回ほどしか使わないと決めている。型が古くなれば、器のフォルムが甘くなるからだ。石膏型から出した粘土を乾燥させ、電気窯で9時間焼けば、ほんのり薄ピンク色の素焼き生地が焼きあがる。
棚に並ぶ、石膏でできた型。積み重ねた型に粘土を流し込み、生地を作るのが「圧力鋳込み」。
素焼きから上がった薄ピンク色の生地は、灰を混ぜた釉薬につけていく。この時、生地が釉薬の水気をすっと吸い込む。生地を整えて、もう一度電気窯で11時間半の本焼成をし、生成の白色に仕上げる。
JICONの器は、けっして、派手ではない。ラインアップには、昔から作られ、陶悦窯にもあったような菊皿など、伝統的な形のバランスや厚みを調整し、現代の暮らしに馴染むようにしたものも多い。JICON の始まりは飯碗からで、今村さんは、今でもこの飯碗に一番思い入れがあるという。なぜなら、「ブランドのデビュー作に、すでに世の中にたくさんある飯碗を持ってきたあたりに、大治さんの男気みたいなものを感じた」からだと言う。誕生から7年が経ち、アイテム数が増えた現在も、年に1つ2つ、新作を発表している。
JICONは、漢字で書くと「磁今」。「磁器」に、今を生きるという意味の仏教用語「而今」を組み合わせて名付けた。「今を生きる。そんな考え方で、焼き物を作りたいと思った」と今村さんは名付けた時のことを振り返る。磁今という漢字はそのまま、今村さんのものづくりに対する姿勢や、ブランドとしての在り方を示している。
新商品を作るたびに、大治さんも自分たちも、試作品を使って試してみるという。「コップならまず飲んでみるし、料理なら盛り付けて食事をします。すると『もっと深い方がいいよね』などの声が出てきます」と今村さん。麻希さんからは、「少し重い」「サイズ違いが欲しい」といった、主婦目線の意見が寄せられる。
今を生きる器は、こうして生活の一部に取り入れられ、真の日用の品として世に送り出される。最後に、今村さんはこう話してくれた。
「目指しているのは、100年後にアンティークショップに並んでいるような定番。それでいて、骨董や鑑賞するためのものではなく、100年後も日常的に使われているものでありたいと思います」

本記事にてご紹介したJICONの器の一部を、茅乃舎西宮ガーデンズ店にてお取り扱いしております。
また、今村さんが愛情込めてつくりあげたJICONの「飯碗」は、久原本家通販サイトでもご紹介しています。

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