輪島キリモト/輪島塗 後編

わたしたちの好きなモノ

写真:池田ひらく
構成・文:廣川淳哉

人が道具を作り、人と道具が毎日を作る。日常のいろんな場面で役立つことに加えて、そこにあるだけでも少しずつ、暮らしを築くさまざまな道具。それらを生み出す作り手が、日々、使っているモノとは? 今回は輪島塗の産地、石川県輪島市で200年以上続く輪島キリモトの桐本さんのご自宅におじゃましました。毎日使うことで、日々の暮らしの一部となっている、かけがえのない道具の数々を紹介します。

桐本家の食卓に並ぶ漆器。石川県の定番、桐本家で馴染みが深い野菜入りの味噌で仕上げた味噌汁。普段の暮らしに馴染んだ、何気なくかけがえのない存在。

古い輪島塗の器

輪島キリモト7代目の桐本泰一さんの奥様が、「お嫁に来たときからありましたね」と話してくれた、古い輪島塗の器。味噌汁椀にはちょっと小さいものの、小鉢として、また、デザートを入れるのに丁度いいサイズ。ガラスや陶器では、子供たちが使うにはちょっと心配だけど、漆器は落としても割れない上、安心の天然素材。持った感じが気持ちいいからか、子供たちも好んで使ったそう。桐本家では、使い古した漆のスプーンを赤ちゃんの歯固めに使っていたとか。

鵜島塗りの作品

早朝から人々が集い賑わう、輪島の「朝市通り」沿いにある輪島キリモトの本町店。2010年までは近くに「ギャラリーわいち」というギャラリーがあった。キャッチフレーズは、「うるしはともだち」。ギャラリーわいちで一緒に活動していたメンバーの1人で、キャッチフレーズの生みの親でもある作家、鵜島啓二さん。鵜島塗りは、鵜島の独自技法で、朱と黒を重ね塗りし、艶のないマット仕上げ。2006年に60歳で亡くなった鵜島さんの鵜島塗りの器を、今も大事に使っている。

輪島キリモトの「千すじやま椀」(左)と「千すじ汁椀」(右)

江戸時代から続く輪島キリモト7代目、桐本泰一さんがデザインしたのは、高台がない「千すじやま椀」(左)と「千すじ汁椀」(右)。蒔地技法を発展させた「千すじ技法」は、2012年頃に桐本さんと輪島キリモト塗師・小路貴穂さんと開発した独自技法。表面に、職人の手による刷毛ですじ模様を描いた。これによって、擦れに強く、金属製のカトラリーと一緒に使えるという。汁ものはもちろん、サラダやフルーツを盛り付けるのにも重宝している。

珠洲焼(すずやき)作家、篠原敬さんの作品

サラダを入れるのに使う器が、珠洲焼(すずやき)作家、篠原敬さんの作品。珠洲焼は、石川県珠洲市で作られる陶器で、特徴は釉薬を使わず焼くことで生まれる黒灰色。この色味が、トマトの赤や葉物の緑を引き立てる。かつては8人が同居する大家族だったが、2人の子供らが独立するなどした現在、4人世帯となった桐本家。それまで使っていたサラダボウルを持て余すようになったこともあり、このサイズ感と、ちょっと深めな形が気に入ったとか。2年ほど前、珠洲市にあるギャラリー舟あそびで購入。

漆器でできた加藤修央さんのアクセサリー

肩こりで、金属でできたアクセサリーはどうも苦手だという7代目の奥さま。漆器でできているため、軽くてじゃまにならないことに加えて、少し入った模様やコットンコードの雰囲気もお気に入り。5年ほど前から、こうした漆器のアクセサリーを作っている加藤修央さんはもともと木工職人。現在は、輪島キリモトの本町店担当のスタッフでもある。本町店には、「漆器のアクセサリーはありますか」と訪れる人も多いとか。

JICONの「面取りカップ」と輪島キリモトの「ラウンドプレート」

漆器を中心に、さまざまな器が並ぶ桐本さん一家の食卓。7代目の桐本泰一さんが、佐賀県有田市に出張した際に持ち帰ったのが、形のかわいさと安定感に惹かれたというJICONのカップ。JICONの商品をデザインする大治将典さんは、輪島キリモトの商品のデザインも手掛けている。布と漆を組み合わせる漆布着せ技法を用いたラウンドプレートは、フォークやスプーンが当たっても傷つきにくいため、ケーキ皿に使っている。輪島キリモトの商品や試作したものを自分たちの食卓で使いながら、耐久性や使いやすさを検証することが多い。

上出長右衛門窯の平皿と湯呑み

2枚の平皿と湯呑みは、輪島キリモトと同じ石川県にある上出長右衛門窯の商品。上出長右衛門窯は、新しい発想で九谷焼を刷新する窯元。湯呑の絵付けもユニークだ。焼き魚を乗せるなら、漆器よりも磁気かなと求めたのがこの平皿だとか。細長い形が使いやすく、「干物や、小さめの焼き魚に使っています」と奥様。この平皿は本来、絵付けがされている商品だが、絵付け前のものを購入。器は料理の脇役と考えて、基本的には模様がないものを選ぶ。料理が映える、白い器が好みだそうだ。

加藤修央さんの作品(左)と横山美穂さんの作品(右)

左は、白い漆とグレーの漆を重ね独特の表情をもたらしたカップは、蒔地のままの、ざらざらとした土の断面のような質感が特徴。漆器のアクセサリーと同じく、加藤修央さんの作品。右は、木を使用せず、麻の布を漆で貼り重ねて固く仕上げる乾漆技法の作家、横山美穂さんの作品。「ちょっとやさしい表情が魅力」と奥様。分業制で、124もの工程を経て作られる輪島塗。繁忙期には、輪島キリモトの仕事を横山さんにお願いすることもあるという。

石川県輪島市、通称、「朝市通り」沿いにある輪島キリモトの本町店。1972年までは工房だった場所をリノベーションし、2010年オープン。

こうした道具に囲まれて暮らす、桐本さん一家。前編では輪島キリモトの「あすなろの弁当箱」が、世に送り出されるまでのプロセスやものづくりへの想いを伺って、紹介しています。


前編でご紹介のお弁当箱(2種)は、茅乃舎西宮ガーデンズ店にてお取り扱いしております。

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