輪島キリモト/輪島塗 前編

それぞれの暮らし、お弁当の時間

写真:池田ひらく
構成・文:廣川淳哉

日々の食卓や台所で使いたいのは、長く使えるもの。使い続けるうちに手に馴染み、少しずつ使いやすく、愛着が湧き上がってくるもの。茅乃舎が共感を覚えるのも、そういうものです。日本各地にまだある、いいもの、いい道具を求めて、今回は金沢からクルマで2時間。自然豊かな能登半島にある、輪島塗の工房に向かいました。

石川県と富山県にまたがって、日本海に大きく突き出した能登半島。石川県輪島市にある商店街、通称「朝市通り」には、毎朝200以上の露天が軒を連ねる。冬場ならカニ漁の解禁に合わせて、地物の加能ガニやコウバコガニ、毛ガニなど、さまざまな魚介類や加工海産物が並ぶ。歴史ある「輪島の朝市」は今も、観光客や地元客で賑わっている。
朝市通りの一角にあるのが、輪島キリモトの本町店。輪島塗で知られるこの地で200年以上、木と漆にまつわる手仕事を続けてきた輪島キリモトの直営店だ。本町店はもともと、工房として使われていた建物をショップに用途転換したところ。現在の工房は、本町店から南へクルマを6、7分ほど走らせた場所にある。

日本海に面した石川県輪島市。能登半島にあるこの街は、「輪島の朝市」や輪島塗で知られる。

200年以上の歴史を持つ輪島キリモトは、漆器づくりの中でも、釘を使わず木板を組み立てる「指物(さしもの)」や刳り(くり)加工を得意とする「朴木地」を長年続けてきた工房。

木地職人や塗り職人といった輪島キリモトのスタッフのみなさん。この日、7代目の桐本泰一さんは出張中で不在。中央の7代目の奥様、桐本順子さんが案内してくれた。

輪島塗は、各工程を専門の職人が担う完全分業制。大きく、「木地」「下地塗り」「上塗り」「加飾」に分かれ、合計124もの工程を要する。輪島キリモトは、木地づくりの中でも、釘を使わず木板を組み立てる「指物(さしもの)」や、刳り加工を得意とする「朴木地」を長年続けてきた。
茅乃舎で扱う「あすなろの弁当箱」は、輪島キリモトの指物技術をいかしたもの。この弁当箱は、木材を選び、加工し、箱型にし、蓋に漆を塗って完成する。木材は、木目が真っ直ぐ通った柾目の、フシがない箇所を選ぶ。そのほうが木材特有の反りがおとなしいからだ。ヒノキアスナロは水に強く、防虫・防腐効果があるといわれ、洗って繰り返し使う弁当箱の材料に適している。

輪島キリモトの「あすなろの弁当箱 深型(蓋:黒)」。サイズ:210×85×高さ58mm。容量620ml。1万6,500円(税込)。

「あすなろの弁当箱 浅型(蓋:朱)」。210×85×高さ45mm。容量430ml。1万5,400円(税込)。

あすなろの弁当箱は、木材を選び、加工し、箱型にし、蓋に拭き漆を施して完成する。木材は数年も天日干しを行い、倉庫で充分に落ち着かせたもの。

木材を加工しカットしたら、4枚の板で箱を組む。この時、なるべく木目や表情が揃うようにする。組みの良し悪しが耐久性に直結するため、精度高く加工できるカンナで少しずつ削りながら、ピッタリ合うよう調整を加える。四隅を留める朴(ほお)の木は、箱としての強度を高めると同時に、精緻な手仕事を際立たせる。この箱を、拭き漆を3度重ねた蓋で閉じる。蓋と箱の締まり具合もカンナで調整し、緩すぎず固すぎず、丁度いい塩梅に仕上げる。
輪島キリモトの7代目、桐本泰一さんが高級工芸品の産地で目指すのは、現代の暮らしの道具としての輪島塗であり漆器だ。そのため、現在ではデザイン提案から販売まで一貫して自社で行う。漆塗りを蓋だけに留めることで、価格を抑えた弁当箱は、まさに現代の暮らしに馴染む漆器といえる。

木箱の四隅を留める朴(ほお)の木が、箱としての強度を高めると同時に、精緻な手仕事を際立たせている。

それぞれのパーツがピッタリ合うよう、少しずつ削って微調整。小さく、精度高く加工できるカンナを使う。

蓋に用いる拭き漆とは、ヘラや刷毛を使って木地に漆を塗り、余分な漆を拭き取る技法のこと。あすなろの弁当箱の蓋には、粗拭き、擦り込み、仕上げ拭きと拭き漆を3度重ねる。きれいに拭き取らなければならない仕上げ拭きは、最も気を使う作業だという。完成したら1ヶ月ほど干して、ようやく完成。輪島キリモトで作れるあすなろの弁当箱の数は、半月で約50個ほどだという。
「私も大阪から嫁いで、ここに来るまで漆器を知りませんでした」と話すのは7代目の奥様、桐本順子さん。「それでも、使ってみると、落としても割れなくて安心。何を盛り付けても、おいしく見えて、生活が楽しくなりました」と暮らしの視点から漆器を語る。そして、「持った感じや手触りもいいからか、子どもたちも好んで使っています」と続ける。桐本家の食卓では、和の料理だけでなく、カレーにも、卵かけご飯にも漆器を用いる。簡単なサラダやデザートも、よそうだけでおいしさがぐっと増して見えるのが、漆器のいいところだ。
あすなろの弁当箱を、桐本家では卓上の菓子入れとしても使っているという。人の手を介し、じっくり時間をかけて仕上げられた現代の暮らしの漆器は、どんな人の手に渡り、どんな使われ方をするだろうか。使う人の数だけ、それぞれの暮らしに寄り添った、かけがえのない道具の姿がある。

ヘラを使って漆を塗り込んで、余計な漆を拭き取る拭き漆。これを3度繰り返して蓋を仕上げる。

3度の拭きの中でも、仕上げ拭きが最も気を使う工程。うっすら木目が見えるのは、拭き漆ならでは。


本記事にてご紹介した輪島キリモトのあすなろ弁当箱を、茅乃舎西宮ガーデンズ店にてお取り扱いしております。

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